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ノルマンディー牡蠣のワイン蒸し?殺人紀行(前編)

第2回上清水賞に参加です。
「激短ミステリィ~上清水賞開催中~」様よりトラックバックです。










清香島

その島は、伊豆半島の沖合い数十kmのところにあった。
一時間もあれば一周できるような船着場も一箇所しかない小さな島で、名前は“清香島(きよかじま)”と言う。
島にまつわる伝説は昔からいろいろあった。
江戸時代には当時の幕府の金庫番が徳川の財宝を隠したという話があり、その後、海賊の根城になったという噂が広まっていた。
昭和に入ってからは、原因不明の熱病にかかり熱に浮かされたまま伝家の宝刀で家族を斬り殺したその地方の豪商が、一族のものによってその島に建てられた屋敷に幽閉されていたという話も伝わっている。
しかし、現在では何もない静かな島になっていて、最近では意外なことに観光客も訪れていた。
というのも、目立つ建造物といえば、島の中央に建っている古い洋館を改良したホテルくらいで(このホテルが、件の豪商が閉じ込められていた屋敷だったという噂もある)、手つかずの自然が多く本土ではあまりお目にかかれない動植物が生息しているため、ただひたすら自然を愛でながらのんびりしようとする人々の関心をひいたからであろう。

そして、この島で事件は起きた・・・










ピンポンパンポン~♪

「お客様にお知らせ致します。長らくのご搭乗お疲れさまでした。当機は間もなくシャルルドゴール国際空港への着陸態勢へと入ります。お座席を元の位置にお戻しになり、シートベルトをしっかりとお締め下さい」
機内アナウンスが入った。

パタ・・。

私は読み始めたばかりのミステリーの文庫本を閉じシートベルトを閉め直した。

まあ、フランス旅行と言えば聞こえがいいが、いってみれば感傷旅行なわけで、別に目的もあるわけではない。
ただ単に、あいつを、いや、全てを忘れる為だけ、闇雲に日本を飛び出してきたそれだけなのかもしれない。

12時間も飛行機にゆられて来たフランス、降り立ったシャルルドゴール国際空港は雨に煙っていた。

「さて、どうしたものか・・・」
当然行く当てがあるわけではない。
別にエッフェル塔やルーブル美術館を見て観光したわけではないし、まともにフランス語も話せない私である。
ぶらぶらとひたすらパリの町並みを歩き回るしか無いのだろうか・・・。
お金が無くなれば帰るだけ、それまでに全てを忘れ去れる事を期待するしかないか・・・。

「さて、本当にどうしたものか・・・」
自分のいい加減さに嫌気がささないでも無い、だだっ広いシャルルドゴール空港の中に何も知らない日本人の女が独りぽつんと・・。
しかたなく回りを見渡してみる。
ちらっと、同じ日本人のような上から下まで真黒な格好の人物が目にとまる。
「あ、日本人かな?飛行機一緒だった人かな?」
そんな、疑問がちらっと頭をよぎった。

が、次の瞬間、空港内の観光案内のようなスペースが目に留まる。
「あ・・・」
一瞬、稲妻が私の心に走った気がした。
そこには、私の目を捉えて離さない一枚の写真があった。

ノルマンディー牡蠣のワイン蒸し?殺人紀行(前編)_c0063709_2236653.jpg


モン・サン・ミシェル!

千年以上の歴史に彩られた干潟に浮かぶ神秘の修道院。
底なしの砂の中にそびえる強固な岩山の上、夕日に映える尖塔。
ライトに照らされ妖しくも美しい光景。

「そうだ、モン・サン・ミシェルに行こう!」
思い立ったらすぐ行動、それが私の良いとこなんだろうか。
でも、そのせいでこうしてフランスまで飛んできてしまったのだが・・・。
観光案内のおじさんに身振り手振りでモン・サン・ミシェルの写真を指差し「そこに行きたい」と説明してみる。
伝わっているのか?
おじさんの言葉は「ウィ」だけ判った。
でも、地図を取り出し、説明してくれるおじさん、行き先はノルマンディの西の端らしい。
なんと距離にして370キロ、日本だと東京から名古屋や仙台に行くようなものなんだ。
パリ・モンパルナス駅からTGVアトランティクでレンヌまで約2時間。
そこからローカル線でポントルソン・モンサンミッシェルまで約50分。
あら、たいへんな行程なんだ。
でも、私の目を捉えて放さないモン・サン・ミシェル。
行きたい、いや行かねばならない。
なぜか、そんな気分が高まっている事には間違いなかった。

とりあえず、シャルルドゴール空港からモンパルナス駅までタクシーを飛ばす。
駅に着いてからまた身振り手振りでモン・サン・ミシェルに行きたいと駅員に説明する。
そんな、度胸だけは満点なのだろうか、なんとか、TGVの切符を買う事が出来た。

が・・・果たしてたどり着けるのだろうか?

そんな、私の不安をよそにTGVは発車のベルと共に雨に煙るパリ・モンパルナス駅をゆっくりと走り出して行った。
TGVは快適だった、日本の新幹線と同じような物だと思っていたが、さすがそこはフランス車内がおしゃれでゆっくりとくつろげる。
セーヌを下ってルーアン。ドーバーから豪快な石灰岩質の真っ白な崖の続く海岸沿いにリゾート地を抜けてカン、タペストリーで有名なバイユーからレンヌへと続く行程。
車窓から見える雨に煙るフランスの風景は、きっと何でも忘れさせてくれるそんな気がしないでもなかった。

なにげなく、後ろに目をやる。
「あれ?見た事があるような人・・・」
シャルルドゴール空港でも見た事があるような真黒な格好の人影がチラッと目線を横切った気がした。
「まあ、そんな事は無いだろう、なにせ、ここはフランス、まあ日本人もいるかもしれないけど・・外国じゃみな同じ様に見えるっていうから・・・」

そのうち、私は眠ってしまったようだった。
なにぶん12時間もの飛行機の旅疲れがたまったいたのだろう。

TGVの速度が緩む。
「あ、寝てしまった」
目が覚める私。
降りるべきレンヌの駅が近づいていた。
「あら、降りなきゃ・・・」
あわてて、降りる支度をする。
そして、また、ちらっと、真黒な格好の人影が見えたような気がした。

降り立ったレンヌ駅でポントルソン・モンサンミッシェル行きのローカル線に乗り換える。

1時間後、私の目の前にはモン・サン・ミシェルがあった。

見渡す限り広がった干潟の中雨に煙りそびえ立つ尖塔と岩肌に張り付いた砦のような修道院の姿が目に焼き付く様であった。

「やっと、たどり着いた」
そう言わずにはおられなかった。
その昔は汐が満ちると出入りさえままならぬ外界と断絶した気高い姿。
複雑にいり込んだ迷路や中世の雰囲気一杯のコリドール(回廊)。
ロマネスクからゴシックとさまざまな様式美を見せるこの名建築は建築になんと900年以上を要したと言う。

城壁の門をくぐると右手にみやげもの屋やレストランが軒を連ねた賑やかな参道。
私はその参道をぶらぶらと歩きながら全てを忘れさせくれそうなこのモン・サン・ミシェルの姿に感動すら覚えたのであった。

モン・サンミシェルは階段になっている。

「いったい何段あるんだろう・・・」
私は、導かれるままに知らず知らず登っていった。

教会が目の前にあらわれた、その横に小礼拝堂があり一番最初に作られた所らしいと言うこと。
ロマネスク、ゴシック様式で彩られた幻想的な教会内部、奥にはミカエルの像が金色に輝いている。

そして、頂上へとたどり着く。

やはりそこから見る周りの景色は格別なものであった。
天気が良ければ、遠く彼方にイギリスが見られると言う事であるが、残念ながら、今日は雨、イギリスまでは見えそうになかった。
だが、見渡す限りの干潟、そして目と鼻の先にあるブルターニュの強固な城砦に囲まれた海上都市サン・マロ、少し北に上がリモン・サン・ミシェル湾を見ると牡蠣で有名なカンカルを見渡す事ができた。

まさに、天空の城ラピュタ!
その表現がぴったりそんな気がした。

そして、下り。
回廊へと行き着く。
唯一庭が作られている場所で眺めも良い場所だった。
その回廊の横から下っていくと約30本のローソクがあったと言う地下室騎士の部屋ゴシックのアーチがある回廊に行き着く。
「回廊ばっかりだ」
と思わないでも無いが、900年の年月の間に改修に改修を重ねてきたのだ、複雑な迷路の様に入り組んだその形が歴史を感じさせないでも無い。
薄暗い回廊を歩き今度は貴賓室へとたどり着いた。
もともとは修道士の方の図書室であったそうで、もともとタピストリーがありまた本も沢山あったらしい。
フランス革命時にフランス王家が来てここに泊まった事は有名な話らしい・・。
 
そして、また回廊・・・。

「うんん、さて今夜はどうしようかな?」
ふと、思考が現実に戻る。
「やはり、牡蠣が美味いらしいから、隣のサン・マロ辺りで宿を探して自慢の牡蠣でも頂きましょうか?」
「うんん、牡蠣三昧!!ごっくん!」
なあんて!
とっ!
私が思った・・・その時であった。


 
「ぎゃあああ~」



薄暗い回廊の中に叫び声が響き渡った。

「えっ?何?」
突然思考が中断される。

慌てて声がした方を振り返る。
遠くに2人の人影が見えた。
1人が倒れ込む、もう1人の影はそのまま立ち去って行く。
「えっ・・?あの横顔・・・まさか、あいつ??」
そう、立ち去った人物の横顔が、あいつ、あいつにそっくりだった。
「まさか、日本からフランスまで追っかけて来てくれた??」
と一瞬思いが過ぎる・・。
がっ、とりあえず倒れた人影に走りよる。
「あ・・・」
そこには、シャルルドゴール空港、TGVの中で見かけたかもしれない真黒な格好をした男が胸に短剣をさされ倒れ込んでいた。
「えっ?何?この人・・・この人も私を追っかけてきたの?」
そんな疑問が渦巻く・・・。
でも、まだ息はあるようだ。
あいつの疑問は差し置いて、あわてて、声をかける。
「だだだだだっ大丈夫ですか?」
助け起こしながら聞いてみる。
「あ・・・」
見知らぬ男から声が漏れる。
「大丈夫ですか、すぐ誰か呼んできますから」
「いや、もう駄目だ・・・」
「そんな事はありません、すぐ呼んできますから」
「いや、いい、それよりこれを」
瀕死の男は助けを呼んでこようとする私を押しとどめ手を差し出した。
そこには、一枚の地図と牡蠣の貝殻。
「あ、はい、でも、これ」
「これを、た・の・む・・・・・宜しくたの・・・・・」
と、言って男は事切れた。
「えっ・・・いったい、何がおこっているの?」
男から手渡された一枚の地図と牡蠣の貝殻を見つめながら、私はどうしていいか判らず呆然とするばかりであった。


そうこうするうちに、誰が呼んだか判らないが・・・警察がやって来た。
私は、第一発見者としていろいろと聞かれたが・・・もともと、フランス語は話せない・・・。
何を聞かれてもよく判らなかったし、まったく要領も得なかった。
そして、手渡された、地図と牡蠣の貝殻の事も聞かれる事もなかった・・。

とりあえず、警察から解放されて、近くの宿に止まることになった。
「あああっ・・せっかくの牡蠣三昧が・・・」
などと思わないでもなかったが・・。
あの男から手渡された地図と牡蠣の貝殻の事をようやく考える事が出来た。

地図をよく見てみる。
ノルマンディーの地図だ。
赤い印が付けてある。
約2km沖合いの小島のようだ。


もう何がなんだか・・・判らない?・・・私であった。

そして、あいつ、あの現場から逃げ去った、あいつの影・・・。

でも!

「行かなきゃっ!その島に行かなきゃ!」













二日後、私はその小さな島の埠頭に立っていた。


「いったい、これから何が起ころうと言うの?????」
















後編に続く・・・。


















**********第2回上清水賞テンプレ**********
【ルール】
 2人1組で参加する覆面ブロガー同士の、ミステリィ創作作品によるタッグ戦(ダブルス)です。

  参加の流れは、以下の通り。

  1・一緒に参加するパートナーを探す
  2・トラバ作品の導入部(事件編)を受け持つか、解決編を受け持つか
   、2人で相談して担当を決める
  3・前半部担当者が、この記事にトラックバックする
  4・後半部担当者が、前半部の記事に解決編をトラックバックする

1人目は上清水から出されたお題を踏まえて、舞台となる清香島で
事件を発生させて(謎を提示して)ください。
2人目は、その事件の解決部分を書いてください。
前回と違い、前半部が出揃ってから後半部がスタートするシステムではなく、
エントリー期限中に両方ともTBを完了させてください。
前半・後半の同時TBももちろんOK。

なお、ご参加の際にはタッグチーム名も用意していただければ幸いです。
 
 エントリー期限は本日から3月13日(日曜日)23:59までです。
 
 【審査方法】
 ●巨匠・上清水一三六が自ら最優秀作品を選出。
    その他、場合によっては部門賞もあり。
 
 ●参加条件はすべての覆面ブロガーによるチーム。

  「覆面ブログ」の定義は、通常メーンで記事を書いているブログ以外
のブログ。
そして、書いている人間の正体が通常ブログと同一人物であることが
・バレていない・と自分で確信していることです。自分でバレていないと
信じていれば、実際にはバレバレでもかまいません(笑)。

  TB人数制限はありません。原則として1チーム1TBですが、パートナーが
異なる場合には別チームとみなしますので、相手を替えれば何作品でも
TB可能です。また、覆面さえ別のものに着け替えれば、中の人同士が
同じ組み合わせでもかまいません。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペお願いします。

 ★会場   激短ミステリィ    
 http://osarudon1.exblog.jp

**********第2回上清水賞テンプレ**********
by f_window | 2005-02-22 22:34
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